今や“自撮り”は普通になり、さらにその写真に加工を施して実物よりも“盛る”こともごく当たり前。SNSと画像加工アプリの登場により、人間はリアルとしての自分と、バーチャルとしての“盛った自分”という、2つの顔を持つようになった。よくよく考えてみれば、これは人類史において未曾有の状況だ。

なぜ人は盛るのだろうか? 美しさとは一体何なのか? そして盛りはこの先どこへ向かい、それに伴って人はどう進化していくのか?  “カワイイ”のアイコンとして活躍する歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんと、東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員などを歴任し、盛りを数値化して研究している久保友香博士の2人の専門家に対談をしていただいた。

【文/木下拓海 撮影/晴山寛子】
対談ダイジェスト動画


何を“主”とするかで顔の作り方が変わる

きゃりー:すごい最近気になってるのは、桑田Mattさん(笑)

久保:一緒です(笑)。どこまでがリアルなお顔で、どこからがバーチャルとして作ってるのか、その線がすごい気になりますよね。

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mattさん(@mattkuwata_official2018)がシェアした投稿 - 2019年 4月月1日午後8時25分PDT


きゃりー:最初、Mattさんをテレビで見たとき「わあすごいな、王子様かバービー人形みたい」って思ったんですけど、久しぶりにMattさんの「Instagram」を見たら、そこからさらに進んでらっしゃってて……。リアルメイクも、バーチャルな画像加工も進化したんでしょうね。

久保:ひょっとしたら美容整形もしているかもしれません。そうじゃないとメイクと加工だけであそこまでは……。

きゃりー:名前をオープンに言えないんですけど、耳打ちしていいですか?

久保:あ、はい(笑)

きゃりー:……(耳打ちした人)にお会いしたときに、生で見ると鼻がめちゃくちゃ高すぎでびっくりしたんですけど、一緒に撮った写真ではめちゃくちゃ盛れてて二度びっくりしました。自分の顔を写真に寄せに行ってるんでしょうね。

久保:なるほど。写真の自分を“主”としてるってことですね。

きゃりー:そう、リアルの自分じゃなくて、そっちを主としてるんだと思います。その人は映像とか写真集を出している人なので、そうなってくるんでしょうね。

久保:そもそも“盛る”という言葉がいつ出てきたのか調べてみたんですけど、2002年くらいだったんですよ。渋谷の“サークル”があった頃で、当時のプリクラはまだデジタル画像加工技術があまり取り入れられていなかったから、ストロボで白飛びさせて肌をきれいに見せていたんですね。リアルに見たら変だけれども、そんなプリクラで撮ったらちょうどいいみたいな顔をメイクで作るときに、“盛る”っていう言葉が生まれたみたいなんです。


きゃりー:そうなんですね〜。もともとはプリクラに寄せに行った顔が“盛る”だったんですね。そしてそれが今でも続いているということか〜。

久保:今では主にSNSを通して、リアルバーチャルが全然違うのが当たり前みたいになりつつありますが、それについてどう思います? もはやハンドルネームネット上の写真だけで知ってて、リアルは全然わからないっていうことすらよくありますけど。

きゃりー:ここ2〜3年インスタグラマーの登場によって、私のプライベートの友達もすごい自撮りインスタに上げるようになったりだとか、みんながみんなアイドルみたいになってますよね。それについては、自分のことを好きになって表現できているってことだし、すごくいいなって思います。だけど、出会い系の人とかは大変そう。「ちげーじゃん!」ってなっちゃうから(笑)

久保:中国とか本当にそれで殺人事件起きたりしてますからね。実際に会ってみたら、違ったということで。

きゃりー:……こ、殺しちゃうんだ!

美人とは、そのときの技術をうまく使いこなしているということ

きゃりー:このまま理想の顔を突き詰めていったら、いつかみんな“グレイ宇宙人”になるって思うんですが、先生はどうお考えですか?

久保:グレイ宇宙人

きゃりー:前から私はデカ目は絶対したいし、顎ももっとシュッとさせたいと思ってたんですけど、インスタとか見てたら、最近みんなも顎を尖らせてて、でもデカ目で……最終形態はグレイに近づいてるんだなって私思ったんですよ。“盛り”っていうか、“人”の最終形態が。なんならハゲてる人もグレイに近づいてるってことなのかも……って。

久保:(笑)。美人画の歴史を調べてみると、昔は目が細い平安美人だったのがどんどん進化していって、この流れを見ていくと……(著書を開く)。




きゃりー:わー、これ、グレイ

久保:その通りだと思ってたんですよ(笑)

きゃりー:私は今度、京都の南座で歌舞伎ライブするので(編注:4/30開催)、白塗りとかメイクすごい研究してるんですけど、ちょうど最近この話になって、なぜ美人が変わっていくのかすごく気になってたんです!

久保:私は“技術が美人を変えている”って思います。急に大正時代から目が大きくなってくるんですけど、それまでは白粉でアイメイクもしてたんですよ。

きゃりー:浮世絵みたいな顔ですね。

久保:江戸時代の化粧書とかを見てみると、ビフォーが大きな二重の顔でアフターが細い一重の顔だったりして、どうやって目を細くするかという方法も書いてあるんですよ。白粉でいかに目の周りをぼかして、ちょっと目を細くしながら歩くときれいになります、みたいな。

きゃりー:逆ですね!

久保:今の逆なんですね。それはやっぱり当時は白粉が化粧品だから、それをどう使いこなすかがポイントになっていて、使いこなした人が評価される。けど明治時代になって、黒いお化粧が西洋から入ってくると、今度はそちらを使いこなした人が評価されるようになって、目が大きくなってきたのかなあと。化粧品が変わったから、美人も変わったのかなって思うんですよね。

きゃりー:なるほど。そのときにある技術を一番うまく使った結果が“美人”になるということなんですね。今、Mattさんが注目されているのも納得です。

久保:日本人って基本的に作って“盛る”ことが好きなんだと思います。これもある種のモノづくりですからね。
韓国メイクが流行っているのはアプリが先か? リアルが先か?

久保:最近は写真をどうやって撮ります?

きゃりー:私はもう本当とてもじゃないけど、普通のiPhoneカメラだけで撮りたくないですね。撮れないというか……「誰!?」みたいになる(笑)

久保:どんなカメラアプリを使ってますか?

きゃりー:インカメラで「SNOW」のオリジナルかなあ(編注:オリジナルとは加工をしていない状態。韓国製アプリ)。“SNOWオリジナル一番盛れる説”が出てきたんですけど、「Ulike」(編注:中国製アプリ)のほうが顔は変わりますね。

久保:うんうん。

きゃりー:で、「Foodie」(編注:日本製アプリ)も撮るんですけど……。

久保:えー、それって料理を撮影するアプリですよね。顔にも使っちゃいますか。

きゃりー:「Foodie」は結構顔がよくて、そんなに変わらないんですよ。顎周りとか変わらないし……。けど、ソフトになるし肌がきれいだから、盛り初心者は「Foodie」がいいかもしれないなって思いますね。

久保:加工が抑え気味なのが逆にいいんですね。

きゃりー:今、また韓国の“オルチャンメイク”が流行ってますけど、「Ulike」で撮影するとまさに韓国人みたいになるんですよ。欅坂46の若いメンバーの子から「きゃりーさんUlikeって知ってます? 全員、桐谷美玲ちゃんみたいになれますよ」って教えてもらいました。




久保:今はアプリアルゴリズムが、トレンドを作ってるんでしょうね。

きゃりー:今日先生としゃべって思ったのは、その作れる顔にみんな寄せていってるのがすごい面白いなと思いました。今、韓国っぽいのが流行ってるのも、“こうしてこうしたら寄る”っていうルールが決まってて、それができるツールがあるからなんですね。次何が来そうとかあります?

久保:私はそれをきゃりーさんにお聞きしたかったんですよ(笑)。私は新しいものはやっぱり技術が作ると思ってて、ドローンで撮ったりするようになるんですかね、これからは(笑)

きゃりー:すごいですね、それ。

久保:最近だと皆さんは“自然体”を撮りたいって言ってますよね。キメ顔とかはちょっと恥ずかしいから。だからシーン全体で盛るっていう感じになってますね。

きゃりー:シーン全体?

久保:ディズニーランドとかファンタジーな場所へ行って、そこで耳つけて撮影したりだとか、そうですね……みんながコスプレイヤーになってる感じはしますね。で、カメラ解像度も上がっているから全体で可愛くなろうと。背景も含めたらみんな可愛くなれるっていう感じになりつつあるのかなと思います。あとはそうですね……、動画でも盛れるようになったりだとか。
もはや動画でも盛れる時代 薄れる“リアルな顔”の意味

きゃりー:そうそう! ここ最近、“動画盛れ”できるじゃないですか。

久保:そうですね。「TikTok」(編注:中国製動画アプリ)とか。

きゃりー:もう動画も写真と同じ感じで行けちゃいますよね。「TikTok」とか、なぜあんなに可愛い子が多いんだろうと思って、ちょっと研究したんですよ。するとやっぱり、動画だけど盛れてるんですよね、あのアプリ

久保:どうやって研究してるんですか?

きゃりー:私はインスタで、盛りすぎた“びっくり人間”を見るのがめっちゃ好きなんですけど、そういう人って美容師さんがタグ付けで上げてる写真と全然違うんですよ。

久保:ヘアメイクの実例紹介をしている美容師さんのアカウントでは、加工をしていないんですね。

きゃりー:だから「TikTok」の可愛い子も、まずその子のインスタに飛んで、そのインスタのタグ付けから美容師さんが上げてる写真に飛んで、「あ、TikTokってこんなに変わるんだな」っていう。タグ付けが一番見えるんです(笑)

久保:それでビフォーアフターがチェックできるのか、なるほどね〜。

きゃりー:でもすごい人だと、美容師さんにも盛れた写真を送る人がいるらしいですよ。友達にも加工後の写真を送るから、そうなってくるとわからなくなる。

久保:リアルがひとつも見えないということになると。美容師さんがキーパーソンなんですね。なんか盛りが分析できそうな気がしてきました(笑)

きゃりー:あと、もうひとつ思っているのが、運転免許証盛れないです。あそこにもリアルが残ってます(笑)。私、カラーコンタクトレンズを入れてるんですけど、それをしたまま運転免許の写真を撮るのはダメなんです。でも謎なのが、私はこれで常に運転してるんですね。で、怒られるときもこの顔じゃないですか。

久保:そうですね(笑)

きゃりー:このシステムが謎。それに写真を撮るときに、例えばそこがカメラだとしたら、普通はちょっと盛りたいので本当はこれくらい顎を引いて撮りたいんですけど、運転免許のときは「顎上げてください」って言われて、こんな顎上げた感じでしかも裸眼っていう……4年後、再チャレンジします。盛りで。

久保:デジタルやコスメの技術が進化した結果、もはやリアルな姿を見ること自体がなくなってますからね。

きゃりー:“パスポート・運転免許盛れ”をもうちょっと頑張っていただきたいです、令和は(笑)


プロフィール
きゃりーぱみゅぱみゅ
1993年東京都生まれ。歌手・モデル。高校を卒業した2011年に『もしもし原宿』でメジャーデビュー。『つけまつける』を始め、可愛くなりたい現代の女の子の歌を歌い、“カワイイ”のアイコンとしても活躍。高校時代から読者モデルとして活躍し、かつてアメーバブログアクセス1位を記録。現在Twitterは524万人、Instagram120万人のフォロワーを抱えている。SNSテーマにした新曲『きみがいいねくれたら』発売中。好きな人からの“いいね”で気持ちが乱高下する今の女の子たちの気持ちを歌っている。



久保友香
1978年東京都生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員、東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京工科大学メディア学部講師などを歴任。環境学博士。専門はメディア環境学。

女の子が現実とは違うビジュアルを作り、新しいメディアで公開する技術を“シンデレラテクノロジー”と名付けて研究。

2015年には総務省による独創的な研究「異能(Inno)vation」プログラムに採択されている。著書『「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』発売中。


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(出典 news.nicovideo.jp)


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